出産(帝王切開)

ベット上安静を言い渡されてから、
私は、
これまでにない退屈を味わっていた。

ずーっとベットの上。
動ける範囲は、
ベットの横においてある簡易トイレの所までだ。
今までのように
隠れて歩き回るわけにはいかない。
点滴で縛られているのだから。

この点滴が、また曲者。
ちょっと針がずれたりすると、かなり痛い。
たまに看護婦さんが、
針を入れ損なって
液が血管から漏れたりすると、
その部分がプ〜ッとふくらみ、これまた痛い。

「なんか、ずれてるみたいなんですけど・・・」と、
ナースコールで看護婦さんを呼び出し、
入れ直してもらう。

点滴の針は2種類あって、
普通の注射針のような硬い針と、
何で出来てるのかは知らないけど、
少しくらい動いても大丈夫なように、
柔らかい針のものがある。
でも、この柔らかい針。
打つのが難しいらしく、
よくずれてしまう。
おまけに、(看護婦さん曰く)
人より立派な太い血管の持ち主である私は、
血管の中で針が動くらしく、
うまい具合にテープで止めておかないと、
スグにずれてしまう。
何度も打ちなおしたおかげで、
私の腕は、
まるで薬物中毒のように
いくつも青あざができた。トホホ・・・

そんな風にして、
なんとか3日過ぎた日に、先生がやってきた。
「手術して、
赤ちゃんを出してあげたいんですけど、それでいい?」
ウチの子達は、
一人はちゃんと頭を下にしてる状態だったけど、
もう一人は、逆子だった。
自然に治るのを待っていたが、
ただでさえ窮屈なお腹の中。
もう、1回転してくれそうな気配はなかった。
自然分娩できないわけではないけど、
双子の場合、へその緒が巻き付いてることも多く、
さらに逆子となると、かなり難しくなるらしい。
急に手術することになって、バタバタするよりも、
きちんとスタッフがいる中で、
最初から帝王切開で出産した方がいいのでは?
ということだった。

私はホントは普通に産みたかった。
大変なのはわかってたけど、
やっぱり出産の苦しみを知ってるほうが、
母親になりやすいのではないかと(変ないい方だけど)
思っていたから。

でも、出産に時間がかかって、
タダでさえ
お腹にいる時間がすくなかった二人に無理をかけ、
出産後、よくないことになる方が怖かった。

ダンナと相談して、
帝王切開で出産することに決め、
手術の同意書にサインして、
今週の金曜日が手術という事になった。
金曜日といえば、後3日。
6月26日が、
こいつらの誕生日になるのね。と、
それからは会える日を楽しみに、毎日を過ごす。

なんとか
お腹がはって緊急手術という事態を免れ、
手術前日。
夜からなにも食べられないし、飲めない。
ドキドキして眠れないかもと思ったけど、
眠った。(爆)

朝。点滴をはずし、横になって、
じっと時間がくるのを待った。
看護婦さんがきて、
ペラペラの割烹着みたいなのをもってきて、
それに着替える。
あぁ、緊張してきた。
いったいダンナは何をしてるんだろう。
いよいよ、担架に横にされて、
手術に向かうその時、ダンナがきて、
「頑張ってね」
「うん」
と言葉を交わしただけで、手術に向かう。

最初は、麻酔を打つ。
局部麻酔のため、
背中の方から背骨に打つのだそうだ。
麻酔科の先生に背中を向け、
ひざを抱えるようにして丸まる。が、
2人も入ってる私のお腹。
腹囲は、100センチにもなっていた。
そういう姿勢は、無理に等しい。
けど、どうにか形にして、いよいよ麻酔。

ゴリゴリ。

まさにそんな音が聞こえてきそうな感じで、
背骨にドリルで穴をあけているような感触がある。
下の子の時も帝切だったけど、
あれは何回経験してもなれないだろう。
ホント気持ち悪い。
今思い出しても、背中をよじってしまうくらい。

その後先生が
「麻酔を注入しますけど、もし痛かったら言って下さいね。」
そして、
背骨に液体が流れるような冷たい感触。

「痛っ」

痛いですという前に、
声が出てしまった。
「どちら側が痛いですかぁ?」
「上の方ですぅ・・・」
すると後ろでぼそぼそと、
「上の方が痛いという事は、
●側(忘れた)にずれてるって事だから・・・」
「はい」という話し声。

どうやら、
私に話しかけていた先生とは別に、
新米の先生が注射を打ってるらしい。
研修医かな?さすが大学病院。
どうやら修正して、
「いきますよぉ」と、また冷たい感触。
なんと今度は下の方が痛い。
「あのぉ、今度は下の方が少し痛いんですけど」
またまたぼそぼそ話し声。
そして3度目の正直で、
やっと麻酔がきちんと注入された。

ホッとしてあお向けになると、若い先生が、
「局部麻酔ですから、意識はちゃんとありますけど、
痛みはなくなりますからね。」
と言う。
あんたか。さっき、失敗したのは。
痛かったんだぞ。
とちょっと思いながら、
「ハイ」と返事して、まわりを見渡してみた。

はぁ、なるほど。
これが手術室。ふぅぅん。
「今から、これをあてますからねぇ。」という声。
よく覚えていないけど、
多分注射をする時に消毒する液をつけた
ガーゼみたいなものだったのではないかと思う。
はじめに麻酔のかかってない部分をふいて、
「冷たいですかぁ?」
「ハイ」
多分太もものあたりをふいて、
「冷たいですかぁ?」
「ハイ」
それを何度か繰り返すと、
だんだん冷たさを感じなくなっていった。
今度は、つねられてるのか、
「痛いですかぁ?」
と聞いてくる。
「触ってる感触はありますけど、痛くはないです」
それも、何度か繰り返したかな?
そうやって、
ちゃんと麻酔がかかってるのを確かめて、いよいよ手術だ。

先生たちが入ってきた。
みんな帽子を深くかぶり、
マスクをしてるので目しか見えないが、
知ってる先生達だとわかった。
「どう?大丈夫?」
声をかけてくる人。
ふと見ると、外来で見てもらっていた、先生だ。
この先生はベテランで、
責任のある地位にいるらしい。よく知らないけど。
私に入院宣告を出したのも、この先生。
あとでかなりの心配性だと、
他の患者さんから聞いて、笑ってしまった。
「はい」
と言うと、
「僕は今から手術だから、
見てあげられないけど、頑張ってね。」
と言って、去っていった。

わざわざそれを言うために、きてくれたのか。
いい先生だ。
あ、仲のいい看護婦さんも、きてくれている。
(陣痛の時に、話してた人)
こっちを向いてにっこり。
ちょっとホッとする。

そしていよいよ始まった。
何やら、ひっぱられている感触。
あれ?痛い。下の方。下の方をひっぱてる人、痛いよ。
と思っても、もう遅い。
横にいた看護婦さんが、
「もう切ってるけど、大丈夫?」
と聞いた。
なんだ。切ってしまってるのか。
それでこの痛さなら、大丈夫かな?と思い、
「ハイ」と言う。
お腹の中をグニュグニュされてる感触がある。
そして上から力いっぱい押されてる感触。
おぉぉぉぉ、痛いぞ〜〜〜。
痛いというより、
苦しいといったほうが、正しいかも・・・
ふと目のあった看護婦さんに、
「痛い・・・」
と言ってみた。
「もうスグだから、頑張って。」
との答え。

まだかな、まだかな、まだかな、痛いよ、痛いよ、痛いよ、痛いよ・・・

繰り返しそう思ってたら、
頭の上のほうから
「おぉ」
という歓声が上がった。
ん?と思って上目づかいで見ると、
なんとそこには、たくさんのギャラリーが。
どうやら、見学されてるらしい。
驚いた私は、一瞬痛さを忘れた。
んで、またしても、
さすが大学病院。
なんて思っていた。

うわっ!
お腹に生暖かい感触がした。
「今袋を破ったよ。」
と教えてくれる。
そして、ググッと上から押されるような感触。
おぉぉぉぉ・・・
いたいぃぃぃ!!!

(というか、苦しいかも)
と思ったその瞬間、

横の看護婦さんが、
「生まれたよ。」
と笑顔でいってくれた。

「ウソ?」
と、顔だけ動かし、下の方を見ようとするが、
お腹の方は見えないようになっている。
ふと見ると、
別の看護婦さんが、
赤ちゃんらしい物体を抱えて走っていったのが見えた。

「もう一人も、すぐ産まれるよ。」
またしても、暖かい感触。
そして、押される感触。
「産まれたぁ」
頭の上の学生さん(多分)の誰かが
ホッとしたように言った。
その声を聞いて、私もホッ。
赤ちゃんの泣き声がする。
産まれたのかぁ、
となんとなく思った。
先生が、男の子二人だったよ。
と恥ずかしそうに言った。
(だって、ずっと男女の双子ちゃんって言ってたのさ)

その後、看護婦さんが、
握ってくれていた手を離し、
「これから麻酔を流しますから、
眠ってくださいね。」
と言った。
別の看護婦さんが、
二人の赤ちゃんを連れてきて、見せてくれた。
やっと、
ちゃんと産まれたんだぁ・・・という実感が沸いてくる。
でも、赤ちゃんを抱く事もせず、
麻酔が効いてそのまま眠ってしまった私であった。

気がついたら、病室にいた。
横にダンナがいた。目が覚めたとたん、
「おまえ、赤ちゃん見て?」
「うん。少しだけ。あんたは?」
「うん。おれも少しだけ。
赤ちゃん、未熟児センターに移された。」
「なんで?」

どうやら、ウチの双子ちゃん、
少し早く産まれたにしては、
体重もあったほうだったので、
一度は産婦人科の赤ちゃんの部屋に運ばれてきたらしい。
でも、呼吸がどうもうまくできないようだったので、
急遽、未熟児センターに運んだらしい。
「でも、動いてて思ったより元気そうだった。」
とダンナは言った。
「大丈夫なの?」
と聞いた私に、
「うん。命に別状はないけど、
呼吸がうまく出来ないから、
うまく出来るようになるまで、入院だって。」
やっぱり入院かぁ。
でも、ちゃんと二人とも元気に産まれてきたからいっか。
そう思って、ダンナに、
「もう一人、男の子の名前考えといてね。」
と笑って話した。

私は、起きあがるのにもう少しかかるので、
まだ会いに行けない。
残念だなぁ・・・というのが、
出産後の感想だった。